【Introduction】
ユーリア・エンゲストロームの学習理論を、これから何回かにわたり、読み解いていきたいと考えている。
1987年にヘルシンキで、出版された原書は、日本では、1999年翻訳され初版されている。近年、この学習理論が注目されているのは、OECDによるPISA調査によるフィンランド教育への注目からであった。フィンランド教育の背景にあるエンゲストロームの学習理論に迫り、そこに見える学力観、学習観について、考察していきたい。
ユーリア・エンゲストロームは、2004年9月COEの基調講演のために来日している。基調講演の発表論文は、以下である。
http://eschool.weblogs.jp/engestrom/040904u_tokyo.swf
■Yrjö Engeström, ProfessorのWebサイト
http://www.edu.helsinki.fi/activity/people/engestro/
私がなぜ、この学習理論を求めたかというと、
□早稲田大学の新しい学びelearnigにある新しい学習理論があてはまる予見がすること。
□新しい教育が展開される中学校での学習環境デザインがこの理論にあてはまる予見がすること。
□西村昭治先生が来春、エンゲストロームと同じヘルシンキ大学へ行かれること。
□佐伯胖先生がエンゲストロームの講演時、コメンテータをしていたこと・・・などなど
この書籍との出会いは、ほんの偶然で、学習とメディアで講義を受けた保崎則雄先生から紹介されたのだが、ずっと、書棚に眠っていた。ずっと、悶々と、内省しては、行き詰まっていたとき、目にとまった書籍だった。
しかし、開かされたその中身は、翻訳本でありながら、非常に難解で、一行一行読み進んでは、理論の読み直しを繰り返す・・・。
難解な書籍の中にあって、私が、純粋にこの本に傾倒したのは、20世紀のラスト10年で展開された「拡張による学習」プロジェクトについての一文である。
「拡張による学習」は、教育者が挑戦すべきプロジェクトに他ならず、マルクスが言うところの「環境は人間によって変えられ、教育者自身が教育されねばならない」という過程を把握し、実現していくための企てなのである。人間活動の創造的可能性を発見し現実化しながら、自分たちの制度や行為を転換する、あらゆる参加者の知性とエネルギーの結集。そうした「集団的な転換への実践的な参加」を出現させることに、「拡張による学習」は向けられているのだ。
もう、これだけで、私たち教師がすすむべき方向性を本書が指南してくれていることがわかるだろう。
そして、もう既にこの理論と同様、生徒、保護者、教員、学校、家庭、教育委員会と、学校を取り巻く環境の中で、みんなが生かされるシステムづくりを目指している先生が、現場にいることを、私は嬉しく感じている。
方向性を誤らず、理論の検証をしていくこと・・・それが今の私の課題である。