学習と脳=器用さを獲得する脳
久保田 競 編著 虫明 元・宮井 一郎 共著 サイエンス社(2007)
本書を、早大図書館の新書紹介の中で手にしたのは、2か月前だった。
脳科学の先端研究が、特別支援教育の中では、注目されていながら、、医学研究からの専門用語の壁は、なかなか読み進めずにいた。
合間を縫って出席した国立特別支援教育総合研究所のセミナーで、最後に登壇した宮井先生が、本書の著者であることに気がついたのは、先生の講演の最後で、先生自身が紹介された新刊本が、前方のスライドに映し出された時。…セミナー後、一気に読破する。
平成20年3月8日(土)新宿SYDホール
第1部自閉症の脳科学と支援
第2部脳機能画像研究の可能性
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セミナー会場は、入りきれない人のために、会場外のモニターと臨時椅子が用意されるくらいの盛況ぶりだった。それだけ、特別支援教育における脳科学への関心の高さを感じさせた。
私が出席できた唯一の宮井先生の講演は、先生の日頃の臨床研究の中で、リハビリテーションの課題を、専門外の人たちにも、非常にわかりやすい、専門用語を紐解いた説明だった。先生の講演で、感じたことは、「人間の脳の可塑性はすごい。」ということであった。損傷した脳は、脳のほかの部位がその機能を代行できる。また、人間の脳、特に運動野における機能は、学習を続けること(先生の仰る脳の可塑性)。脳障害の人たちにとって、リハビリテーションは、だから重要であること。
学習とは記憶や行動を獲得して発達させることである。この獲得・発達をうまくする技術もまた学習されるのである。
本書の冒頭の一文は、教育そのものにも、あてはまる。だから、人間は、教育が必要なのである。
セミナー後、神戸の小学校教員から、「LD、発達障害児たちは、不器用な子、運動音痴の子が多いように感じますが、先生の研究からどのような手だてが必要でしょうか」との質問に、
「まず、健常児と、障害児との差がどのくらいあるのか、きちんとしたアセスメントが必要ですよ。」との回答。
教育現場の中では、運動学習(行動)を計測することは、なかなかできない。
今年度の私たち研究「ICT活用時の、言語刺激による学習の促進効果」(2008)では、クラスの子どもたちの運動学習を、コンピュータを使って、時間計測する研究を行った。行動形成の学習を必要とする子どもたち、特に特別支援を必要とする子どもたちへの行動抑制・行動形成は、教育現場では、重要な課題である。
今後は、この器用さの学習のメカニズムにもある運動学習の段階的な時間を計測をすることで、子どもたちひとりひとりのもつ運動学習におけるアセスメントや、行動形成の手がかりがみえるかもしれない。
運動学習にある、より注意が必要で意識の介在が強い明示的な学習と、意識があまり関わらずに学習される暗黙的な学習の2つの形態のメカニズムをさらに、整理すると、日頃の教育活動の中で、特別支援の子どもたちへの手立ては、いくつも見つかるのではないだろうか。特に、教師による運動学習を誘導する言語刺激(言語教示)は、重要なことだと考える。
宮井先生たちの研究に、私たちの研究の、次の手がかりを頂く…深謝。