ブレイン・デコーディング Brain Decoding ー脳情報を読むー
「脳を活かす研究会」著 オーム社 (2008)
子どもたちの発達障害とAssistive Techonologyを考えていくと,脳科学の領域を外せられない。
本書は,社会科学と脳科学が結集した異分野のクロス・ファーティライゼーションによって,思いもかけない光景を広げてくれる。
20世紀型の経済学は,「ヒトは自己の満足度ないしは儲けを最大にする」のが,経済学においては人間行動であるとしてきた。こうした「公理」から数理モデルを構築することで,人間の経済行動を記述し,予測可能だと考えてきた。しかし,研究者は,理論と実験の間で,人間の持つ「関係性」や「規範」に,経済行動は,左右されることを,実験の中で,見つめながら,葛藤する。人間行動の経済的側面は,お金だけでなく,ヒトとヒトとの関係,相手に対する感情,育った環境などの多くの要因が互いに影響し合っている。その複雑に絡み合った人間行動を分析する一つの手段が,ブレイン・デコーディングの役割ではないか。
〜本書はじめに(西條辰義)部分参照〜
教育,特に特別な支援を必要としている子どもたちへのアプローチも同じだろうと考える。人間の発達段階における認知過程からモデルとしての学習指導要領が作られ,それに則した学習指導が行われながら,一人一人の子どもたちのもつ発達過程や認知過程の違いに,どう対応して行くのか。
一人一人のGeneが違うように,一人一人のBrainは違う。
ブレイン・デコーディングとは
脳活動信号が与えられたとき,そこから未知の情報を予測すること。それを計測するのがBrain-Machine Interface(BMI)。
ブレイン・マシン・インタフェースとは
http://ja.wikipedia.org/wiki/ブレイン・マシン・インタフェース
これらのことは,例えば,子どもたちが言語学習する過程において,その教材が,テキストなのか,音声なのか,画像なのか,その刺激要素の違いによって,明らかにブレインデコーディングが変わってくる。そして,そこでの学習過程は,一人一人のブレインによって,差分があることがわかれば,ケースごとの,より有効な教材提供を,子どもたちに与えることができることを示すものである。
本書の中にあるDementia治療と芸術活動の記述から,
人間の脳のメカニズムは,外界からの情報を与えられたとき,過去の様々な記憶からシミュレーションして,判断し至適な行動選択をする。人間の記憶(作業記憶,長期記憶と短期記憶)について整理すれば,発達課題のある子どもたちへのアプローチが,それらの記憶過程での障害の中で,その差分への促進によって,どのような効果があるかが,解明できる。
それらを,教育(学習)におとしこめば,新学習指導要領にある「習得」,「探求」,「活用」の3つのキーワードも,なるほど,納得がいく。
発達障害の子どもたちに,より有効なICTの活用をはじめとしたAssistive Techonolgyを考えていくとき,人間の脳のメカニズムの捉え,ブレイン・デコーディングすることは,一つの手法になる。
新しい教育のはじまりは,こうした異分野のクロス・ファーティライゼーションが重要なのだろう。