9月25日,日本学生支援機構が,大学,短期大学,高等専門学校を対象(1,218校回収率100%)に実施した障害のある学生の修学支援における実態調査の報告をまとめ発表した.
大学、短期大学及び高等専門学校における
障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書(2008)
独立行政法人 日本学生支援機構
本調査における障害の定義
http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/documents/teigi.pdf
報告書によると障害学生数は,6,235人.この数は,全学生数の0.2%というわずかな数字である.障害種別では,肢体不自由が最も多く,2,231人(35.8%),次いで聴覚・言語1,435人(23.0%),病弱・虚弱1,063人(17.0%),視覚646人(10.4%),発達障害/診断書有299人(4.8%),重複139人(2.2%),その他422人(6.8%)である.
障害学生のうち,何らかの支援を受けている学生は,3,440人(全学生の0.11%)であった.
障害種によって,支援内容は異なると思われるが,本調査での支援方法の内容は,以下の通りである.
(引用元:報告書調査票p.56-57)
【支援方法】
1.点訳・墨訳:
点訳は教科書や配布される資料などを点字に訳し、利用者に提供したり、情報を伝えたりする支援技術・方法。墨訳は試験などで点字で解答した場合、それを出題者が採点するために点字を通常の活字に訳すこと。
2.教材のテキストデータ化:
教材、レジュメなどの印刷物をテキストデータ化(フォント、サイズなどの書式情報を持たない文字だけのデータ)する方法。テキストデータ化することにより、パソコン上で「音声読み上げソフト」や「点訳ソフト」を活用できる。
3.教材の拡大:
講義テキストや配布される資料などを拡大読書機でモニターに拡大表示したり、大きなポイント(大きい文字)で印刷したりすることにより情報を伝えること。
4.ガイドヘルプ:
利用者が学内を移動する際に、歩行介助及び誘導を行なうもので、主として講義と講義の間の教室移動をサポートすること。
5.リーディングサービス:
講義テキストや配布される資料などを音声で読み上げ、文字を音声に訳すことで利用者に情報を伝える支援技術・方法。主に講義中に板書されたものなどをその場で口頭により伝える「代読」と、利用者と支援者が対面しながら資料等を読み上げる「対面朗読」がある。
6.手話通訳:
講義の内容や周りの様子を支援者が利用者に手話で情報を伝える支援技術・方法。
7.ノートテイク:
講義の内容や周りの様子を支援者がルーズリーフ用紙等に筆記し、利用者に文字で伝える支援技術・方法。
8.パソコンテイク:
講義の内容や周りの様子を支援者がパソコンに入力し、利用者に文字で伝える支援技術・ 方法。
9.ビデオ教材字幕付け:
教材等として使用される日本語で製作されたビデオ・DVDなどの台詞、ナレーション等を聞き取り、それをテキスト化し、ビデオ等に字幕として挿入すること。紙面に記す方法もある。
10.チューター又はティーチング・アシスタントの活用:
大学院の学生や担当教員などが、学部学生等に対し、生活や講義、実験・実習、演習等の補助や助言等を行う学内の制度を活用した支援のこと。
12.試験時間延長・別室受験:
定期試験の際に、点字の読み取りや筆記、代筆が必要な場合に通常に比べ時間を要することから、通常の試験時間を延長して行なう措置のこと。多くの場合、別室を用意し、そこで受験する。
13.解答方法配慮:
障害の状況に応じて、試験時の解答方法を選択できるようにすること。
14.パソコンの持込使用許可:
授業中にパソコンを利用するため学校(教員)が持込を許可すること。
15.注意事項等文書伝達:
定期試験の際、通常は口頭で受験者に伝達する注意事項を文書の形にして、対象者に配布或いは板書すること。
16.使用教室配慮:
授業で使用する教室を移動しやすい教室にしたり、修学に適した広さ・設備の教室にすること。
17.実技・実習配慮:
体育等の実技、専門教育での実習、学外実習等、いわゆる座学中心の講義以外の授業に対し配慮すること。
18.教室内座席配慮:
障害学生が受講しやすいように教室内での座席の位置を配慮すること。
19.FM補聴器・マイク使用:
講義者が持つ専用のワイヤレスマイクを通じて、距離や周囲の雑音に影響されず、講義者の声を専用の補聴器を装着した障害学生に伝える方法。また、そのワイヤレスマイクや補聴器の貸し出し等を行うこと。
20.専用机・イス・スペース確保:
車いす用の机の配置、スペースの確保など、障害学生が円滑に授業を受講したり、学生生活を送るために、障害の特性等に合わせた設備又はそれに関連する配慮を行うこと。
21.読み上げソフト使用:
電子データを音声データに変換するソフトの貸し出し等を行うこと。
22.講義内容録音許可:
講義内容の録音を学校(教員)が許可すること。
23.休憩室の確保:
休み時間や空き時間に、障害学生が休憩することのできる部屋・スペースを設けること。
このうち,ICTによるAssistive Technologyは,広く使われている.
視覚障害学生支援のための講習会では,ピアチューターと呼ばれる支援者を対象に,支援活動時に使用する教材などのテキストデータ化のためのソフト(WinReader PRO),編集のためのソフト(MS-Word)の使い方をテーマに実施された.
これらICTを使った障害学生支援では,ICT学習機器環境の整備とともに,修学のための障害学生の情報リテラシー教育,支援者への研修といったことが必要になる.これらは,障害種別に異なることと,統一されたことに整理しながら,今後の支援のあり方を考えていく.
因みに,視覚障害学生に対するピアチューター活用の具体的な内容は,以下のようなものがある.
1.教材のテキストデータ化*
2.対面朗読
3.代筆
4.レポート,プレゼンテーション資料などの作成補助*
5.文献の検索・入手補助*
6.履修管理の補助
7.掲示板に書かれた情報の伝達*
8.授業中の補助
(*ICTが効果的に活用できるもの)
障害学生の情報リテラシー教育として,モバイル端末を活用することも,今後視野に入れながら,障害学生のニーズに応じたAssistive Technologyを活用した学習環境整備には,どのようなものがあるか,さらに検討していく必要がある.
そうした学習環境整備とともに,より多くの障害をもった子どもたちの修学への支援を考えていくことも,これからの特別支援教育における課題でもあると考える.