信頼性とは,測定における正確さや安定性・一貫性を表す概念である.妥当性とは,測定したい結果が測定したい能力(内容・目的)を正しく反映しているかを表す概念である.測ろうとしている内容を網羅しているか(内容的妥当性),同様の能力に関する他の測定結果と一致するか(併存的妥当性),測定の結果が理論的な予測と一致するか(構成概念的妥当性)などの観点から検討される.教示に曖昧さがなく明確か,といった点も影響される.
信頼性,妥当性については,課題の遂行結果に基づいた統計的な数値(信頼性係数)や分析などによって,様々な方法で推定でき,予備的実験の結果に基づいた問題の構成,数などを調整することで,高めていくこともできる.しかし,最も重要なことは,測定すべき能力がどのようなものであるかを十分に検討すること,対象の子どもの特徴を正しく把握することである.
統計法は,研究に欠かせない手法の1つである.基礎データの整理,仮説検定,多変量解析といった様々な手法がある。上手に利用すれば,直感的に捉えにくい複雑な資料を分かりやすく整理していくれる.判断を助け,説得力を強めてくれる.しかし,統計は,数学理論に基づくものであり,厳しい前提条件のもとに理論構築がなされている.そのため,扱う数の性質を理解し,分析しようとする数が,順序尺度を満たすのか,間隔尺度を満たすのか,常に考え,その数がどのように集められ,個々のデータの独立性や処理に対応するデータ数の確保も重要になる.さらに検定での有意性の判断では,何を基準に何を判断しているのか,基礎的な考え方について,きちんと理解する必要がある.
実験的研究では,母集団を代表するサンプルを対象とした結果から,集団全体の特徴について検討する.研究においては,できるだけ,母集団に近いサンプルを集める必要があるが,現実には難しく,便宜的な方法でサンプルが選ばれることが多い.障害児研究においては,得られたデータを集団としての結果とみなすよりも,個人としての結果とみなす方が正しい解釈や結論に近づくことができる.平均値などの代表値を表すけっかも大切であるが,子ども一人ひとりの結果について,その子の特徴を明らかに照らして分析したり,解釈することが、より一層大切である.
また,課題の成果(performance)が実際の能力(competence)を反映するという前提に立つ実験的研究においては,実験の実施に際して,さまざまな配慮を行うのは,できるだけ,competenceを正しく反映したperformanceを得ることが必要であるが,しかしながら,十分な配慮を行ってもなお,課題などの結果が子どもの様態を正確に反映するという保障はない.大切なのは,研究結果は,結果以上でも以下でもないことを十分に認識することである.
障害児を対象とした研究のひとつの意味は,
子どもの教育や指導のよりよいあり方を探り,今後の教育を改善するための方向性やヒントを得ることにある.しかし,「教育に対する示唆」を求めるあまり,研究の結果に対して過剰な意味づけをすることには,誤解を産むことに繋がる危険がある.結果の解釈にあたっては,得られたperformanceがどの程度,あるいはどのようにcompetenceに反映しているのか,深く考え,過不足や偏りのない結論を提示することが大切である.
参考文献:第4章5節 聴覚障害児を対象とした研究の留意点 p.173-176