はじめに
障害研究における研究では,障害を持つ人のために役に立ちたい,という想いが大きいが,研究の成果が実際に役に立つかどうか,最終的に判断されるのは,その成果が障害者に還元されたときであり,研究をする人が当初から役に立つと決められるものではない.ただ,常に,役に立って欲しいと想いそのものは,重要である(四日市,2009).
研究においては,研究の目的に応じて,適切な研究手法が選ばれる.方法だけを取り上げて,どの方法が良くて,どの方法が悪いということは言えない.どの方法にも利点と限界があることを理解し,クリティカルシンキングによって,常に,研究の真理を追求していくことが必要である.
1.研究計画と研究の進め方
学問分野によっても,研究の進め方は,様々なスタイルを持つ.研究論文の形式は,一般的には,<序論→研究の目的→研究の方法→結果の整理と図式化→考察→今後の課題→引用文献一覧>という順序で構成される.
第1フェーズでは,研究計画研究の背景や意義を,先行研究をもとに整理し,研究のオリジナリティや目的を明らかにする.ここでは,自分の研究がどのような位置づけにあるのか,従来の研究に比べ,どこが新しい点かを明確にする.その中で,研究で明らかにしたいことは,何かを短く明確に具体的に示す.
第2フェーズでは,その目的を達成するための最適な方法を構成する.具体的に,いつ,どんな場所で,誰が,どのような器具や,装置・資料をどのように用いて,どのような教示のもとに、どのような人を対象に何を行うかといった点を明記する.このことは,他の人の追試を可能にし,同じ実験なり,調査を行った場合にも,同様な結果が期待されることを意味する.
第3フェーズでは,結果として,得られた資料を,目的とする事象を明らかになるように整理し,図表も交えて,読者に分かりやすく示す.結果が数量で得られている場合には,適切な検定法を用いて,数量的な結果を補足・確認する.
第4フェーズでは,得られた結果を先行研究での知見を参照しながら,研究の目的に沿って,どのようなことが新たにわかり,どのような意義があるのかを,考察する.そこで,解明できなかったことは,今後の課題として,整理して示しておく.
最後に,研究で用いた文献を指定された書式で記載する.
2.研究のための基礎的知識・技能
研究には,コンピューターをはじめ,様々な道具が用いられる.道具を有効に使いこなすためには,そのための知識が必要である.道具は正しく使えば,多くのメリットを生み出し,研究を後押ししてくれる.しかし,誤った使い方をすれば,研究を混乱させるばかりか,誤った結論を導きかねない.近年では,統計法やソフトウェアに関する知識があまりなくても,コンピューターにデータを入れると即座に検定や多変量解析などの分析の結果を得ることができる.しかし,その結果が心に信頼にあるものであるか否かを最終的に判断する人,責任は,研究者自身であり,自身の社会的責任という観点からも,道具についての知識や技能を高めておく必要がある.
3.研究の限界
自分の研究がどの程度の精度をもって行われているのか,得られた結果はどこまで一般化が可能なのかは,最も注意を払わなければならない.
調査研究,例えば,アンケート調査で得られる結果は,あくまで,対象者の意見であり,事実そのものでない.人が人を理解しようとすることは容易ではない.事例研究では,対象となった個人の特性を明らかにし,それと得られた知見との関係を明示しなければならない.実験研究の結果からは,詳細な点が解明されるが,それを,実験条件の範囲を超えてまで,広い解釈をしてはならない.あくまで,その条件の中で,言えるということを,明示する必要がある.
我々が行う研究は,実験的方法であれば,小さな針の穴から人を眺めるようなものであり,調査であれば,ぼんやりとしか見えないめがねを掛けて人をみるようなものである.得られた結果は正しく事実を反映しているのか,考察は結果に正しく則っているのか,本当にそこまで言えるのかなど,常に自問自答し,何度も確認しながら,研究を進める必要がある.
どんな研究にも,必ず,制限や限界がある.自分の研究から言えることについては,一生懸命に考えることと同じように,その研究では言えないことについて,自覚しながら研究を進める必要がある.
対象に対して,真摯に,謙虚に問いかけ続ける姿勢が必要である.
4.倫理的配慮
研究に対する実施者の責任のみならず,研究対象者の人権に関わる点を中心に明確に示したものが,研究倫理の順守という考え方である.研究のもつ社会的な責任を自覚し,研究対象者への最大限の配慮のもとに研究が実施されるように,研究を行う組織では,研究倫理網領や倫理規定として,その基本的な理念と共に,遵守すべき事柄を具体的な形で定める.
- 参加する研究に関する対象者への適切かつ十分な説明
- 対象者の十分な理解と参加への同意
- 個人情報の適切な管理
参考文献:四日市章編著 リテラシーと聴覚障害 第4章1節 p.117-123 コレール社 2009