「聴覚障害の子どもたちは,耳が聞こえないという障害ではありません.話せないということが障害なのです.」特別支援教育を学びながら,まだまだ障害理解の浅い,勉強不足な私自身が,インクルーシブ教育の実現を,簡単に口先だけで言ってはいけないことを,反省する今日の授業だった.
「プレゼンテーションのご指導をお願いします.」特別支援学校からの依頼は,英語科と自立活動のクロスカリキュラム(全6時数)でのプレゼンテーション指導だった.聴覚障害の生徒たちが,英語を話し,どのようにプレゼンテーションができるのか.担任教諭からいただいた授業の略案と,ルーブリック評価表から,練られた既習学習の様子が伺える.本時の学習活動は,日頃生徒たち自身が関心のあること,興味のあることをパワーポイントのスライドを使って,英語と日本語で発表し,次に聴覚障害児のコミュニケーションについて,調べたことを,グループに分かれてプレゼンテーションする.
プレゼンテーション指導は,発表のポイント,スライドの効果,発表者だけでなく聞き手側のマナー等・・・通常学校での指導内容と変わらない.スライドの見え方と色の工夫,グラフはよく見えるか,クイズを作って,聞き手をひきつけよう,参観いただくお母さんたちも巻き込んで,プレゼンしよう,立ち位置はどうする?・・・生徒たちのアイデアで,プレゼンは,短時間で,ブラッシュアップされていく.
授業は,口話が中心である.担任の先生たちは,手話も交えて,口話で授業を行う.授業中,私の発話に,生徒たち全員が眼を向ける.読唇をするのである.ところが,日頃口の開け方など意識していない私の発話を,生徒たちは,読めない.担任教諭が,すかさず手話で通訳してくれる.コンピューター操作指導は,対面でないため,筆談を使う.生徒たちは,よく質問をしてくる.全ての生徒が口話を使う.使うことができる.手話も使える.授業の中では,相手の発話を読むために,対面することが基本であり,対面位置にいなければ,担任が,友だちが,対話を補完する.近年,補聴器の性能も確実にあがっている.赤外線補聴システムを使いながら,授業の対話は,口話と手話というバイリンガルの言語で成立する.
外国人講師を招いた,英語発表では,プレゼン後,簡単な会話をする.外国人の英会話は,ノートテイク(音声情報を筆記通訳すること)して,スライドに映し出す.
生徒たちの英会話は,確かな英語を話す.私が最も期待していたことを生徒たちは,しっかり学んでいた.それは,言語にあるプロソディ(音韻)である.附属聴覚特別支援学校での聴覚障害の生徒たちの英語学習に注目しているのは,口話法を基礎にした指導法で,四日市校長先生の講義レポートでも,報告した.日本におけるバイリンガル教育,小学校での外国語活動には,このプロソディの習得が大切であることを,聴覚特別支援学校の生徒たちの英語学習が,立証していくのだろうと思う.
生徒たちのプレゼンテーションは,限られた時数の中で,完成度の高いものだった.ルーブリックの評価基準を十分満たす内容でもあった.
発表会後,感想を求められて,
「・・・表現力の高さを感じました.伝えるためには,みなさんが発表してくれたように,伝えたい思いをもつことも必要ですね.ただ,今日の授業を振り返って,みなさんの表現のひとつひとつを見せていただきながら,そこでは,みなさんが,伝えるための方法を,いくつももっているからだろうと思います.口話,手話,日本語,英語,パワーポイントもそうですよね.・・・」
4月から高等部に進級する生徒たちは,いろいろな方法をもっと探究していくのだろう.運動部で活躍する生徒も,パソコンの達人も,アニメ好きな生徒も,ファッションに興味がある生徒も,・・・みんなひとりひとりの伝えるための方法を,拡げていくのだろう.
私は,今日の授業で,生徒たちの表現力のあるプレゼンテーションから,インクルーシブ教育で必要なのは,相手の立場にたつコミュニケーションであることを学んだ.私は,障害をどれだけ理解しているだろう.生徒たちとのコミュニケーションのための方法(今日の授業では,口話法,手話法)を持ち得ないで,教員は授業などできない.
附属特別支援学校では,幼稚部時代から,保護者との恊働教育が欠かせない.保護者の方たちは,幼稚部時代は,ほとんど毎日,児童と通学して,教室の後ろで,授業のノートをとる.学校と家庭の連携の中で,子どもたちは,成長していく.
今日の授業でも,授業参加してくださるお母さまがたのひとつひとつの発話に,注目する生徒たちの態度から,聴覚障害教育にある授業の形の一面をみる.幼稚部から小学部,中学部と11年間の学びをともにする中で,お互いの子どもたちの成長を一緒に育む保護者と,信頼される先生たち,そうした学校のあり方が,障害児教育を支えている.そうしたスペシャル教育から,インクルーシブ教育を考えたとき,インクルーシブ教育が,障害児のためになるには,我が国の場合には,まだまだ多くの課題がある.それよりも,スペシャル教育にある指導法などに着目して,通常学校と特別支援学校の連携のありかたを,いま以上につなぐことが大切なのだろうと考える.