サマータイムのヘルシンキは、日本時間より6時間遅れで、朝がくる。
「原稿がタイムアップに間に合いません。」夜通しの仕事、明け方送ったメールに、
「なるべく早くメール下さい…。」西村先生からの返信。
厳しいと思いながら、時計を見る。
ヘルシンキとの時差で、仕事をする。お昼までなら、何とかできるかも…
インターネットが世界中を結び、24時間フルタイムで、動けるようになったことが、いいことなのか。
カリフォルニアの友人との共同研究も、17時間の時差を、夜中のチャットとメールで、フルにこなした。
時間を超越して得られたものは、何だったんだろう…。
東大生産技術研究所、研究室でのITS(高度交通管制システム)研究は、移動体間の時空間を、測定するという当時、基礎研究として、非常に注目を集めた研究で、現代のカーナビゲーションシステム、GPS:Global Positioning Systemの、先駆けになる研究だった。
自動車などの位置をリアルタイムに測定表示するカーナビゲーションシステムが実用となるのは一般相対性理論に基づく。現代のカーナビは、GPS衛星に搭載した時計の正確さに依存される。もしも人工衛星上の時計が1万分の1秒遅れたとすると、位置情報は光速の1万分の1、距離にすると30kmのずれが生じる。GPS衛星の速度は秒速約4kmであるため特殊相対性理論による時間の遅れの影響を受ける。
一方高度は約2万kmであり、こちらは重力場の効果、すなわち一般相対性理論の影響を受ける。いずれも1兆分の100のオーダーの誤差を生む。これは1日あたり1万分の1秒に相当する。
精度なGPS衛星の宇宙空間に発する時報を、地上受信機がキャッチして、位置情報を測定する…。
…私たちの時間を決めるもの。そして、その中を移動するもの。
今、時間を超えた速さをもつ光通信の中で、新しい研究は既に、始まっている。A地点でキャッチした物体をB地点へ光通信で、移動させることは、それほど難しいことではない。物体のもつ情報を高速処理して、A地点からB地点へ移動させる。(もちろん、現在のところ、物体そのものではないが)そのためには、もっと広域の周波帯域が必要となる…このことは、かつての移動体通信研究の中でも、重要な課題だった。ITSの移動体通信研究は、その後、携帯電話という移動体通信を生んでいき、さらに発展する。
なぜ、アナログ放送から、デジタル放送へと国をあげての施策が進むのか。それは、この帯域確保に他ならない。
周波数30MHz ~ 3GHzの広い帯域の世界での、移動体通信の可能性。携帯電話というmobile研究。
mobile研究がさらに進んでいったとき、私たちの時空間は、もっと超越されるのだろうか。その中で、私たちのコミュニケーションは、暮らしは、どのように変わるのだろう。
2つの携帯電話を持つ校長先生。
「この携帯電話は、校内の教職員と親密な人、家族とかね、大切な人専用なんですよ。…連絡下さいね。」
時空間の中で、コミュニティ空間をコントロールする…。
ドラえもんの「どこでもドア」は、それほど遠くない未来…そこで、私たちが、開くのは、どんなコミュニティの扉なんだろう。
高羽研の扉に貼ってあったアインシュタインの写真。また、舌をだしたアインシュタインに迎えられるのだろうか…。扉の向こうに、会いたい人は、いるのだろうか…。